ものすごくゆっくりと、でも確実に

「税金を払ってない」という言葉をあなたは正しく使っているだろうか

2012.08.04
片山さつき氏・世耕弘成氏に代表される生活保護の縮小策の気分的バックグラウンドとして利用される考え方に「税金を払っていない人にはそれなりの権利の制限があっても仕方がないのではないか」というものがある。わかる人には一発でわかることなのだが、これはおそろしく間違った、二重三重に間違った考え方である。その間違いがわからない人にこそ、このエントリは読んでもらいたい。


まずは叩き台として次の引用/リンク先を読んでみてほしい。
" 世耕議員は、反対派との意見相違の根底について、「フルスペックの人権を認めるかどうか」と説明する。生活保護が憲法上の「最低限度の生活」の権利を保障するものである以上、その権利の範囲をどう考えるかは、国民の間でも議論が必要だ。"
生活保護に厳格化の波、拙速改革の落とし穴(5) - 12/07/11 ー 東洋経済オンライン
生活保護の給付水準下げ自立意欲高める、権利の制限は仕方ない――参議院議員・世耕弘成 - 12/07/12 ー 東洋経済オンライン


既にウェブ上でもけっこうな批判・非難の対象になっていなくもないが、そのミソがわからないという人をも想定に入れてゆっくり話を進めてみよう。


「フルスペックの人権を認める」という言い方、そしてもちろんその奥に見える考え方がまずもっておそろしい。われわれの「人権」というものが世耕氏や日本政府や行政機関によって認められて初めて存在するかのようである。漫画や映画や小説に出てくるような、人々が「一級市民・二級市民…下級民」に分類されて生きているディストピアでの言説のようですらある。われわれの人権は彼ら/それらに認められるまでもなく、本来的に原理的にいっさいの上下の区別なしに端からしっかりと存在し保障されているはずである。世耕氏のこの発言には、政府だとか国家財政だとかの存続のためには「一級国民のためのフルスペックの人権」「二級国民のためのあらかじめ制限付きのロー・スペックの人権」という考え方を導入するのもやむを得ない、とでもいわんばかりのおそろしいトンデモ論が底流として感じられる。そしてもちろん、こうした言い方や考え方が可能になるのは、世耕弘成参議院議員が憲法の精神さえ理解してない愚か者だからではなく、われわれ自身の中にそうした考え方に縋ってでも誰かを攻撃し自分の利益を守りたいというエゴイスティックなフラストレーションが蓄積されてきた結果からである。


片山氏・世耕氏のような存在が愚かで狂った特異な参議院議員の一例という一時的な個別の現象であれば、われわれはまだ安心できる。続く選挙のどれかで落選してもらえば済む話だ。が、この動きが、われわれ国民をあれやこれやのイシューについて事あるごとに分断し、全体の流れとしては常に弱者切り捨ての方向に向かわせていく動きだとしたらどうだろう?そこに「陰謀論」を見出だすか否か、「悪の天才的マキャベリスト論」を立てるか否か、は実はさしたる問題ではない。片山氏・世耕氏であれ他の誰か・続く誰かであれ、自民党の隠れた戦略の大枠であれ、はたまた総体的な「民意」であれ、この「誰かを切り捨て自分の生き残りを目指す」という流れが大勢を占めた時、政治はたやすくファシズム方向へと流れる。われわれは対岸の火事としてではなく自分のこと、自分の家族・友人のこととしてこれを常に考えていなければならないのだ。


さて!
おそろしく前置きが長くなったが、タイトルにある「税金を払ってない」という文言をあなたはどう解釈しているだろうか?上記で語ってきたようなネトウヨ的ファシズム的弱者切り捨てトンデモ論というのは、無視できない大きさの比率で、「税金を払う」「税金を払っている」「税金を払っていない」という言葉の意味を日本人の多くが実はよく知らずに使っていることを源に生まれてくる。ものすごく端的に、かつものすごく逆説的に、まず挑発的な物言いをしてみよう。「生活保護を受けている人は税金を払っていないわけではない」と。「日本では違法・脱法的な手段を積極的に講じない限り『税金を払っていない人』になることはできない」と。


あなたが、働いていない学生、働いたことが今のところない学生、働いているがその収入がごくわずかにとどまる学生、である場合、あなたはたいてい「税金を払っていない」。なぜならあなたは「税金を払う必要が生じるほどの所得が認められる人」ではないからだ。それはあなたが「税金逃れをしている」ことを意味しない。あなたが「税金を払っていない人」でもあるのは日本国が(端的には税法が)あなたを「税金を払う必要のない人」と認めているからだ。

同じようにあなたが、アルバイト・パート・フリーター等々の、何であれ「正規雇用」でない労働者であり、年の収入が103万そこらで、国民年金等々の社会保障費を払ってない場合、あなたもまた「税金を払っていない」し、「税金を払う必要のない人」である。

さらにあなたが、「正規雇用」「非正規雇用」問わず、国民年金か厚生年金、健康保険、雇用保険等々を一部/全部払い、年の収入が130万そこらである場合も、やっぱり「税金を払っていない」し、「税金を払う必要のない人」である。

もっと言えばあなたが、「正規雇用」で配偶者や子どもがいて、もろもろの社会保障費を払い、自分の自由な消費に使えないその他のもろもろを払っている場合、年の収入が150万、200万、300万であっても、「税金を払っていない」し、「税金を払う必要のない人」である、ということもあり得る。


こうしたことは全て、憲法の「健康で文化的な最低限度の生活」に依拠する税法の根本原理から来ている。その数々の金額水準に問題があるとしても、少なくとも税法は、個々の国民の「健康で文化的な最低限度の生活」を税金を取ることで侵さないように気を付けているわけなのだ。多くの「あなた」は源泉徴収制度のため確定申告の経験がなく、したがって「税金を払う」「税金を払っている」「税金を払っていない」という文言を正確に理解し使うことができていない。生活保護を受けている人、生活保護並/以下の収入で暮らしている人が「税金を払っていない」のが当り前の国民の権利、人権、生存権に基づいての当り前の現象であることを理解していないのである。税金をたまたま、この1年、過去5年、これから10年、働き始めてからこれまで、1円も払ってない人であっても、「所得」が「課税標準」に達するやいなやいつでも「税金を払う人」になるのだから、「税金を払っていない人」という架空のスティグマ階層を立てる必要も妥当性も元々どこにもないのだ。


論が行ったり来たりとっちらかりで、今エントリの極論/逆説/挑発戦略が成功したか甚だ疑問だが、このブログは体系的で理路整然として順序立ったものである必要はないので、手を変え品を変えこうした論陣を張っていく。政治的視点と言えるものが床屋談義をするのにさえ決定的に不足している層に向けて、粘り強く言説を重ねていくことをタスクとするからだ。その層はけっして「若年層」にとどまるものではない。読みに来た「あなた」がそういう層である場合、少しでも目から鱗のエントリを放てればいいなと思う。次回もおそらくこの線で、別アプローチで。









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全体主義と衆愚政治がいちばん嫌いだから、です。
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