ものすごくゆっくりと、でも確実に

基礎控除額の些細な引き上げは消費税の負担相殺に益することはない

2012.11.18
さて、退屈で、そのくせ知的な集中を必要とする税制の話 — 税制に潜む生存権の軽視の話を根気強く続けてみよう。
今エントリーもまた、続く2、3のエントリーの序説となり、消費税という税形態自体の不平等性・非人道性を改めて説き、やがて来ることになる8%10%消費税に向けての反対論陣醸成に一役買うことを意図としている。未読の方は前エントリー 38万円の基礎控除は5%の消費税の「言い訳」として十分なのだろうか を予め併せてお読みいただきたい。


前エントリーの後半において、言わば「政府側の言い分・申し訳」として、3%5%消費税の導入に合わせて基礎控除の額が33万 > 35万 >38万と引き上げられ、そのことが
「国民のみなさん隅々に至るまで消費税3%/5%を負担して頂くことになりますが、より負担率の高い低所得層のみなさんに配慮して、替わりといってはナンですが、基礎控除分の引き上げによってその3%/5%を相殺できるようにしときましたよ」
という一見理にかなってそうな言い訳になっていることは説明した。
便宜上、その図式を再掲しておく。
89年以前の基礎控除+給与所得控除:33万+65万=98万を基本に
98万x1.00=98万           65万+33万=98万
98万x1.03=100.94万    65万+35万=100万
98万x1.05=102.9万      65万+38万=103万


既にウンザリして知的営為を放棄しようとしている読者が想像できるが、上記の図式は

・基礎控除が33万で消費税が存在しない時代、所得税を課税されずにすむ下限の収入
・基礎控除が35万で消費税が3%の時代、所得税を課税されずにすむ下限の収入
・基礎控除が38万で消費税が5%の時代、所得税を課税されずにすむ下限の収入
が、消費税0% > 3% >5%の引き上げに応じて引き上げられ
そのことによって消費税として負担することになる「税金」が
たとえ収入の100%を「消費」にあてることになっても
3万円/5万円内にとどまる
そしてその3万円/5万円を「稼いでも課税されない控除額」の内にあらかじめ含めておく
そしてそのことが、より負担率の高い低所得層のみなさんに配慮することになる
だって片方で3万円/5万円を取っても、もう片方で3万円/5万円を取らないことにすれば結局一緒、ですよね?ですよね?ですよね!

という「政府側の論理」を説明したものと言える。(ちなみに89年の改正で、101万でなく100万・36万ではなく35万なのは、私のミスではなく明らかに政府側の迷走/論理の破綻/セコさと言える)


さあ、おさらいと追加説明を終えて、やっと今回のミソに行こう。
基礎控除額引き上げによる消費税分の「相殺」的負担軽減という考え方が、実質的な負担軽減になっているかどうか、なり得るかどうかのシミュレーション的検証だ。
いずれも低収入/低所得であるAさんBさんCさんに登場してもらい、消費税がない場合と5%の場合で、実際の税負担がいくらになるかのシミュレーション。家賃は消費税非課税であるため適宜、東京都在住を想定して課税分支出から除いてある。低所得者には当り前にあることとして、残りの全ての収入は消費税対象の消費的支出に消えるものとしている。

Aさん
収入105万/家賃6万x12=72万/消費税対象の消費支出は33万
・消費税がない場合/基礎控除が33万である場合
消費税 0円
所得税 3500円(105万-98万=7万 7万x0.05=3500)
総税額 3500円
・消費税5%の場合/基礎控除が38万である場合
消費税 1万6500円(33万x0.05=16500)
所得税 1000円(105万-103万=2万 2万x0.05=1000)
総税額 1万7500円
消費税5%の下では、彼の総税額は1万4000円も高い。

Bさん
収入96万/家賃5.5万x12=66万/消費税対象の消費支出は30万
・消費税がない場合/基礎控除が33万である場合
消費税 0円
所得税 0円(96万-98万=0 0x0.05=0)
総税額 0円
・消費税5%の場合/基礎控除が38万である場合
消費税 1万5000円(30万x0.05=1万5000)
所得税 0円(96万-103万=0 0x0.05=0)
総税額 1万5000円
消費税5%の下では、彼の総税額は1万5000円も高い。 
ついでに言えば、ナショナル・ミニマム以下の収入の彼は、本来的にはいっさい「税の負担」を求められないはずである。

Cさん
収入192万/家賃7.5万x12=90万/消費税対象の消費支出は102万
・消費税がない場合/基礎控除が33万である場合
消費税 0円
所得税 4万7000円(192万-98万=94万 94万x0.05=4万7000円)
総税額 4万7000円
・消費税5%の場合/基礎控除が38万である場合
消費税 5万1000円(102万x0.05=5万1000)
所得税 4万4500円(192万-103万=89万 89万x0.05=4万4500)
総税額 9万5500円
消費税5%の下では、彼の総税額は4万8500円も高い。


論点を端的に示すため大幅な単純化を行っているが(つまり、実際の所得税額を大幅に左右し得る各種「控除」を無視した計算になっているが)、低所得者にとっては各種の「保険」料というのは払わない/払えないものであることに留意してほしい。たとえばBさんのように「月あたりの自由に使えるカネ」が3万円を切るような人が如何なる保険料も払えないのは自明であるはずだ。また、各保険料を払うことで控除額が増えればそれだけA、B、Cさんの所得と所得税は限りなく0に近づくのであり、それはとりも直さず、この図式における消費税の不当な高さ=家計圧迫性をますます強調する方向に働くことにも注目。


話を戻して総括しよう。
こうして具体的にあり得る税負担の形をシミュレーション的にでも描いてみれば、基礎控除額引き上げによる消費税分の「相殺」的負担軽減という考え方は、うそっぱち=一見もっともらしく思えるが実際にはそうではないものということがはっきりと実感できる。AさんBさんCさんのような「低所得者」にとっては89年以前の基礎控除33万・消費税0%の時代のほうが現行の基礎控除38万消費税5%の時代より税負担はずっと低く、また「健康で文化的な最低限度の生活を送る権利を税金を課されることで侵されない」という点において、より憲法遵守的で人道的な税制下にあると言えるのだ。


「憲法と税制の公平性」「税制による生存権の侵害」「消費税法は生存権を脅かす悪法」etc etc...
われわれ日本人の9割から9割9分まではそういった「難しそうな」「専門的な」「法学者と法学生向きの」論議を好まない。われわれ日本人の9割から9割9分まではそういったことは「専門家」に任す。われわれ日本人の9割から9割9分まではそういったことを専門家でもないのに語る人を嗤い遠ざける。そう、われわれを政治から遠ざけ、他ならぬわれわれ自身の「財布のカネ」を白紙委任状とともに政府に渡しているのも、他ならぬわれわれ自身なのである。


「そうであるのは御免だ!」「そこからすぐにでも脱却したい。まず何をすればいい?」という人がもしいれば、私は何よりもまず先に北野弘久氏の著作をおすすめするだろう。



30年以上も前のこの著作は、新書にふさわしくむしろ簡便で入門編的なものとなっているが、それでも多くの「未関心層」に、政治意識の土台となるだけの見識と問題意識を強く喚起するのに十分なパワーとスリルを持っている。私は法学部/政治経済学部の出身ではないが、現在の政治意識のスタート地点でこれを読んだことを僥倖と思っている。リベラルでもコミュニタリアンでもリバタリアンでもある私はこの著作を支持するのにいっさいの矛盾を感じない。政局ニュースを野次馬根性でひと月30時間読むくらいなら、この一冊を3時間ずつ10回読み返したほうがずっと「勉強」になることだろう。









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コメント
No:3|
抜群の説得力、感心しました。
2012/11/24 13:33|by 社労士永江|編集
No:9|基礎控除
消費税と基礎控除の関係について疑問持ってまして、大変参考になりました。あと2か月ちょっとで8%です。でもみんな平穏に暮らしています。3%くらい上がっても命に別状ないし・・・ってことでしょうかね。
2014/01/28 11:56|by 夜叉|編集
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Author:demosthenesZ
第一にリバタリアン、ある意味リベラル、ある意味左寄り。
全体主義と衆愚政治がいちばん嫌いだから、です。
twitterでも@demosthenesZ

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